VISION
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発達指向型組織とは?
成人発達理論に根差し、自己変革と成果創出の高度な両立を可能にする。
発達指向型組織(Deliberately Developmental Organization 略してDDO)とは、ロバート・キーガン教授(ハーバード大学教育大学院)、リサ・ラスコウレイヒーが提唱する成人発達理論に根差した組織文化を持つ企業形態です。
高収益と超成長文化の両立を果たしている企業を研究対象とし、それらの企業が成人発達理論の原則に適合した形で組織運営がなされていたことから、その特徴を学術的な見地から捉えなおし体系化しています。
研究対象となった企業はいずれも「企業の業績か、個人の成長かという二者択一で捉える」もしくは「どちらかが優先である」という考えがなく、両社は一体のものとして捉える等の際立った特徴を備えていたことから、その必要性と本質的な意味が紐解かれています。
なぜ、今、発達指向型組織なのか?
キーガン教授達は、VUCAワールド(Volatility::変動性、Uncertainty不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)という激動の世界において、組織には以下のような要件が求められるようになったと言及しています。
上記のようなVUCAワールドが求める適応要件を満たすべく、超成長文化を実現しているのが発達指向型組織です。それは机上の空論に基づく学術上の仮説ではなく、既にその姿を実現し、高収益も実現している企業が存在していることから、「時代の要請に応えるかのように、組織が進化し始めている」という点が注目に値するポイントです。
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全ての労力をパフォーマンス向上に集中できる状態を目指す
激動する環境の変化に適応すべく、付加価値を創出し続けられる状態にするためには、余分な対応を極力減らした方がよいとは誰もが思うことではないかと思います。
しかしながら多大なる「余分な労力(≒コスト)」が存在しているものの、それは組織内では見逃されたままになっているものがあると述べられています。
それは「自分の弱さを隠す」ことによって発生する余分な労力です。
このような余分な労力は、いずれの組織においても何かしら発生していますが、それは仕方ないものとして扱われていたり、何かしら文句をいただきながらも、有効な手を打てないままになっていたりするというのが実情です。
これらの「自分の弱さを隠す」ための余分な労力を削減することができれば、パフォーマンス向上に全集中できる状態により近づくことができるようになります。
※『「自分の弱さを隠す」余分な労力』の例
・自分の弱点が露呈したり、弱みに付け込まれたりしないように、自分を強く見せ、時にはチャレンジ自体を避ける。それにより、本人の成長によるパフォーマンスアップが図られない
・本人が弱みをさらけ出せないが故に、周りも見て見ぬふりをして表面的に振る舞うものの、飲み会など本人がいない場所で陰口が横行するため、改善が図られないばかりか、職場の安全性が損なわれ、雰囲気が悪くなる
・建前と本音が分離するために、計画に対しての実行が伴わなくなる
・「本当に思っていること」が語られないために、お互いに腹では何を考えているのか、詮索するための労力をかけざるを得なくなる
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個人と組織の絶え間ない進化を可能にする
環境が激変するということは、特にビジネスにおいては、求められるパフォーマンス要件が変わることを意味しています。しかも、ただ要件が変わるだけではなく、競争原理もそこには加わっていることで、より高度で難易度の高い要件を満たすことが求められるようになります。
それは言い換えれば、個人や組織は絶え間なく進化するように、強要され続けていくことを意味しています。
会社が危機に陥った時にだけ奇蹟的な進化を遂げればよいのではなく、「いかに進化を遂げ続ける人と組織を創るか。イノベーションを常態化するにはどうしたらいいのか?」があらゆる組織に問われています。それは、これまでのマインドセットや組織デザインを改良するレベルではなく、個人や組織がそれまでの自己を「超越」できる状態を目指すことであると言及されています。
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組織そのものを能力開発の場にする
研修を始めとしたオフサイトの人材育成の取り組みには、以下のようないくつかの共通する限界が存在していると指摘されています。
・継続的ではなく、期間限定的
・日常業務とは切り離された「特別な活動」としての実施
・対象メンバーが限られる
・開発の対象が組織ではなく個人に限られる
これらの限界を超えていくためには、組織文化が他のビジネス上の目標(収益性や品質など)を後押ししているかだけでなく、文化が人々の成長(メンバーが自らの限界と死角を克服し、複雑さを増す仕事に対する習熟度を高めること)を後押しできるかを問い、それを目指すこと。そうした成長の支援が、はっきり目に見える形で、日々の業務を通じて常に継続的に実践される必要が説かれています。
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従業員が経済的な報酬以外の心理的な報酬も得られるようにする
VUCAという地殻変動の中で、個々人に対しても進化を強いられ続けていることから、単なる金銭や社会的地位を求めるような報酬だけでは個人は満足しなくなってきていることも指摘されています。自分自身のキャリアに対して敏感な人であればあるほど、経済的な報酬以外にも自分の成長機会を求めるということは以前からもあり、環境の変化が激しくなればなるほどそうした人たちのニーズは高まりやすくなってきています。しかし、今は、そうした意識が高いと言われる人達の成長機会を求めるニーズ以外のものも生まれてきています。
それは、「自分らしく」という言葉に代表されるような、個人としての充実感や幸福感を満たしたいという心理的な報酬に対するニーズです。
「変わらねばならぬ、成長せねばならぬ」という絶え間ないプレッシャーにさらされていく中で、「自分にとっての本当の幸せとは何だろう」という漠然とした自問自答をしている人は確実に増えてきています。
企業は既存の経済的な報酬に加え、そうしたニーズに応えられなければ、優秀な人材を流出させるだけではなく、「私は自分らしくいたいんで、これ以上働くつもりはありません」という防衛的な姿勢に終始する社員に翻弄されることになります。
発達指向型組織の特徴とは?
発達指向型組織には、3つの側面(ホーム、エッジ、グルーヴ)が存在しており、それらが相互に影響しあっています。
それらは3本足の椅子のようにどれかが欠けても成立せず、お互いに支え合い、強化しあう関係になっています。
「一皮むける」体験だったり、人間として大きく成長を実感した時のような体験であったりするとき、そこには、自分の限界を超えていくための「チャレンジ」とそれを支援する周りの「サポート」が存在しているケースが多いとキーガン教授は述べています。そして、それこそが成人発達のチャンスでもあります。
発達指向型組織では、日々の仕事を通じて、人と組織の進化を可能にしていくために、その「チャレンジ」と「サポート」が高まっていくように意図的にデザインされています。
それが3つの側面です。
- エッジ
エッジとは「限界に挑むことへの強い欲求」が組織内で日々、実践されていることを指します。
これは「チャレンジ」にあたります。
発達指向型組織においては、メンバーが自分の能力の限界を知ることを可能にし、限界と向き合うことに価値を見出せるように促しています。
その象徴として、キーガン教授はブリッジウオーターの創業者レイ・ダリオ氏が社員に向けて発した以下の問いを紹介しています。
「あなたは、自分がどのくらい優れているかと、どのくらい速いペースで学習しているかのどちらをより心配しているのか?」
発達指向型組織では、自分がどのくらい優れていると見られているのかを心配して、弱さを隠そうとするのではなく、弱さは資産であるとし、それを「チャレンジ」として設定し、乗り越えていくことが奨励されています。
- ホーム
個々人にとっての適切な「チャレンジ」が組織の中で常に取り扱われるようになるためには、それぞれの弱さや弱点が常に共有される必要があります。
しかし、それは心理的な恐れを伴います。特に、その弱さに付け込まれたり、何かしらの証拠として活用されてしまったりするような状態が組織の中で生じるようであれば、人はオープンにはなりえません。
そのゆえ、この「ホーム」が非常に重要になります。「ホーム」とは、職場のコミュニティで一人ひとりが人間として尊重され、常に自らの行動に責任を負い、うわべだけでない対話を続けられる環境を指します。
これは「サポート」にあたります。
発達指向型組織では、お互いがお互いにそのサポートをしあうことが義務付けられているだけでなく、トップも例外ではなく、役職を問わずエッジを超えていくことを強いられることから、立場役割を超えて対等な人間同士として尊重し、支援されるようになっています。
- グルーヴ
「グルーヴ」とは、車のわだちや定番のやり方という意味があり、「チャレンジ」と「サポート」が日常のやり取りの中で徹底されるように促す慣行(プラクティス)のことを指します。
それは、仕組みに留まらず、メンバー同士の会話の仕方や、共通言語なども存在しています。
例えば、仕事に慣れてきたらすぐに次の仕事に移されるなどのルールが徹底されていること等があります。
「エッジ」や「ホーム」が個人に依存することなく、組織全体の文化として根付けるようにするのが「グルーヴ」となります。
図1:発達指向型組織の3つの側面
発達指向型組織の土台となる成人発達理論とは?
発達指向型組織は、単なるスキルアップのための育成を促進しているというだけではなく、成人の発達が促進されるようにデザインされていることが他の組織との大きな違いとなっています。
ロバート・キーガン教授が提唱する「成人発達理論」においては、成人における知性の発達ステージが提示されています。
ここで表現される「知性」とは、mind(考え方、思考)であり、深く自分自身を内省すると同時に、自分を取り巻く世界を深く理解する能力を指し、大きく3段階で表現されています。
(「図2:成人の知性の3段階」参照)
図2:成人の知性の3つの段階
大人の知性の最初の段階に位置する「環境順応型知性」は、チームプレイには向いていますが、順応主義で、指示待ちになりやすい傾向にあります。
次の段階は「自己主導型知性」であり、課題を設定でき、導き方を学び、自分なりの価値観や視点で方向性を考えられ、自律的に行動できます。また、自分の価値観に基づいて自戒し、自分を管理できることができます。
両者の違いには、情報の受け取り方にも現れます。
環境順応型知性は情報に対してきわめて敏感で、その影響を受けやすい傾向があります。それに対して自己主導型知性は、受け入れる情報の選別フィルダーを創り出します。その選別にあたって優先されるのは、自分が求めていた情報や求めていなかったけれど、自分の計画、基本姿勢、思考の枠組みとの関連を見出せる情報となります。また、自分が求めておらず、自分の計画にとって重要とも思えない情報は優先順位が低くなる傾向があります。
発達指向型組織においては、フィードバックの質と量が通常の組織とは異なります。
一般的な組織ではフィードバックが継続的に実施されることはあまりなく、頻繁にフィードバックを実施している組織の場合も、社員の行動の追跡と修正が目的であるケースが非常に多くみられます。
それに対して、発達指向型組織におけるフィードバックは、人々の行動の前提やマインドセットにまで踏み込まなければ不十分、ないしは表面的とみなされます。改善と介入とマネジメントの対象に人々の心の内面も含めることで、成人の発達が促されています。
たとえば、「環境順応型知性」の人に対しては、フィードバックを鵜呑みにせず、それを分析したり評価する様に促されています。
一方、「自己主導型知性」に対しては、フィードバックを元に持論を強化するだけでなく、自分の思い込みを問い直すように促すといったことが奨励されています。
大人の知性の最後の段階に位置する「自己変容型知性」は、問題発見を志向し、あらゆるシステムや秩序というものが断片的、あるいは不完全なものであると深く理解している段階です。また、1つの価値観だけでなく、複数の視点や矛盾を受け入れられるのが特徴です。
自己変容型知性の持ち主は、他の人とコミュニケーションを取る時、自分が既に持っている目標や計画を前進させることだけを考えず、それを修正したり、拡大させたりする余地も持ち合わせています。
また、情報の受信においても、自己変容型知性もフィルターを持っていますが、自己主導型知性と違ってそのフィルターと自分が一体化してない点に特徴があります。
つまり、フィルターを通して物事を見るだけでなく、フィルターと距離を置き、フィルターそのものを客観的に見ることもできます。
VUCAワールドという激動の時代においては、自分の思い込んだ前提をいつの間にか覆すことは容易に起こりうるため、リーダーポジションにある人であればあるほど、自己変容型知性であることが求められるようになります。
発達指向型組織においては、それを見越したうえで構造的に発達の支援を行っているという点において特徴的であり、高いパフォーマンスも発揮できている所以でもあります。
発達指向型組織ムービーギャラリー
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ロバート・キーガン教授来日シンポジウム
「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか」の出版記念シンポジウムの動画です。
ロバート・キーガン教授に加え、古河電工小林敬一氏、サイボウズ青野慶久氏、エゴンゼンダ丸山 泰史氏をお招きしてのパネルディスカッションも繰り広げられました。
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「発達指向型組織」の全貌と可能性に迫る
ロバート・キーガン教授自身による解説に加え、サイボウズ株式会社青野慶久社長、監訳者中土井 僚へのインタビューで構成されるプロモーションビデオです。